思春期(10歳~)の皮膚疾患とケア
思春期は、心も体も変化が著しい時期で、急激な身体の成長とホルモンバランスの変化により、皮膚にもさまざまな影響が及びます。
肌の性質としては、皮脂増加により乾燥肌は改善しますが、脂性肌となり、にきびが問題となってきます。
スキンケアも、親離れと社会性の高まりから、友達やメディア・ネットなどからの自己流なものになりがちです。
女の子では、おしゃれへの興味からメイクなど刺激物への使用も増えることになります。
スキンケアは親中心から子供自身が行うようになるので、自己管理できるように働きかけることが大切になります。
また、にきびを中心とする肌のトラブルは思春期の大きな悩みの原因の一つとなります。ときに、心のストレスが原因で学校生活に影響する場合もあり得ます。逆にストレスや不規則な生活習慣が肌の状態を悪化させることもあります。
ここでは、思春期の肌の特徴と、特に問題となる皮膚の症状と考えられる病気について紹介します。
思春期の肌の特徴
皮脂の増加
ホルモンバランスの変化(男性ホルモンの増加)により、皮脂腺が活発化します。
乾燥傾向は改善しますが、特に顔や背中などで脂っぽさが増します。
毛穴の目立ち
皮脂分泌が増えることで毛穴が詰まりやすくなり、にきびの原因となります。
乾燥と脂性肌の共存
Tゾーン(額や鼻)は脂っぽく、頬や口元は乾燥しやすい混合肌の傾向が見られます。
外部環境への影響
紫外線や化学物質による刺激に対する感受性が高くなる時期です。
紫外線対策として、外出時にはSPF30以上の日焼け止めを使用し、2〜3時間ごとに塗り直すことが重要です。また、帽子や日傘を活用することで紫外線の影響を軽減できます。
化粧品やアクセサリーなどの使用機会が増え、接触性皮膚炎が問題になります。
心の問題との関係
学校生活や人間関係からくるストレスが皮膚トラブルを悪化させることがあります。逆に、にきびや顔のアザ、多毛など肌の悩みが心の問題との関係し学校生活などに影響することもあります。例えば、にきびをからかわれることで自尊心が低下し、学校生活が辛く感じるケースなどです。これを防ぐには、周囲の大人が肌トラブルの影響を理解し、子どもが安心して相談できる環境を整えることが重要です。
思春期に問題になる皮膚トラブル
思春期に最も特徴的なのはにきびで90%の人がにきびに悩まされていると言われています。
他にも、そばかすや、多毛、多汗など美容に関係する悩みも増えてきます。化粧品やアクセサリーなどの使用機会が増え、接触性皮膚炎やアレルギーも問題になることもあります。
アトピーは年齢とともに改善すること多いですが、難治化しいわゆるアトピー肌となり成長しても続くことがあります。
にきび/尋常性ざ瘡
にきび(尋常性ざ瘡)
- 疾患の特徴:
顔を中心として皮脂の分泌増加により、毛穴に皮脂や角質が詰まり、毛穴が広がり盛り上がります(しろにきび)。
にきび菌(アクネ菌)が炎症を引き起こすと赤にきびになり、膿を含む膿疱に進行することもあります。
放置するとにきび跡が残り、直りにくくなります - 対策:
- 毎日の洗顔を欠かさず行い、余分な皮脂を取り除く。
- メイク落としを使ってメイクをしっかりと落とすことも望ましい.
- ノンコメドジェニック(にきびを悪化させにくい)と表記したスキンケア製品を使用する。
- 炎症がひどい場合は、皮膚科で処方された外用薬や内服薬を使用します
ふけ/脂漏性皮膚炎
脂漏性皮膚炎
- 疾患の特徴:
皮脂の分泌が多い髪の生え際、顔のTゾーンにフケが多く出る皮膚病です。男性ホルモンとマラセチアという菌が関係し、自然には治らず、良くなったり悪くなったりを繰り返します - 対策:
- 脂漏性皮膚炎用のシャンプーやローションでのスキンケアを行います。
- 抗真菌薬やステロイド外用薬などを使用します。
かゆみが強い
肘や膝裏に痒みが強い湿疹が繰り返して出る/アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎
- 疾患の特徴:
小児期の延長で、肘や膝の裏の湿疹を繰り返すことで硬く盛り上がり(苔癬化)、上半身を中心に、色黒で荒れ乾燥したアトピー肌となります。眉の外側がうすくなり、目尻に皺がでるなどの特徴的な顔になってきます。
幼児期に発症したアトピー性皮膚炎が再燃する場合があります。 - 対策:
- 保湿ケアを徹底する。
- 必要に応じて外用薬を使用する。
- アレルゲンの除去や生活環境の改善を行います。
強いかゆみがあり、皮膚の盛り上がりが出たり消えたりする/じんま疹
じんま疹
突然、かゆみを伴う赤い皮膚の盛り上がりが一時的に出現します。いろんな場所に出たり消えたりするのが特徴です。
抗ヒスタミン剤の飲み薬で治療します。
原因(アレルゲン)が特定できる場合は、そのアレルゲンの摂取でより強いアレルギー反応来す場合があるので、摂取を避けなければなりません。しかし必ずしも原因が特定できない場合もあります。
慢性化する場合は医師の診察を受けましょう。
特定の局所が、かぶれてかゆい/接触性皮膚炎
接触皮膚炎
- 疾患の特徴:
化粧品や金属、植物などによる刺激やアレルギー反応で赤みやかゆみ、腫れが現れます。
思春期では、化粧品や染毛剤、アイメイク、アクセサリーの使用による接触性皮膚炎が増えます。 - 対策:
- まずアトピーとの鑑別が必要です。
- 問診で原因となる物質を特定し、その物質との接触を避るようにします。
- 症状が強い場合はステロイド外用薬を使用します。
おでき ふきでもの/毛包炎
毛包炎、癤(せつ)、癰(よう)
- 疾患の特徴:
毛穴にブドウ球菌などの細菌が感染し炎症を起こして引き起こされる病気です。
毛包炎は、毛穴が赤くはれて、痛みや熱を持ちますが数日で膿がでて症状が改善しますが、毛穴の炎症(毛包炎)が進行すると、おできになり強い痛みと発熱、倦怠感などがあらわれます。これを癤(せつ)、さらに癤が複数の毛根に広がったものを癰(よう)といい、専門的な治療が必要です。
シェービングやムダ毛処理の後など、微小な傷をきっかけに起こることが多く、思春期に問題になります。 - 対策:
- 1~2週間程度で自然に治りますが、手で触れたり、潰したりしないように注意しながら、清潔な状態を保つことが重要です。
- 抗菌成分配合の市販の塗り薬を用いてみるのも良いでしょう。
- 2週間経っても良くならない」「徐々に状態が悪化している」「強い痛みや腫れなどの症状がある」といったケースが見られた場合は、皮膚科やクリニックで相談してください。
汗のトラブル
手の汗や脇の汗が多く生活に支障が出る/多汗症
多汗症
- 疾患の特徴:
手のひら、足の裏、脇など限られた部位から異常に汗が出る状態を「原発性局所多汗症」と言います。
手掌多汗症は子供の頃から見られますが、腋窩多汗症(脇の汗)は思春期頃から問題になりやすいです。
これらの汗が原因で学校生活や対人関係に支障をきたす場合もあります。
-
- 手掌多汗症:
手のひら、足のうらは精神的緊張で時にしたたり落ちる程の汗が出ます。
手、足はいつも湿って、あせもができて表皮がめくれたり、カビや細菌の感染を起こしやすくなります。
- 手掌多汗症:
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- 脇汗(腋窩多汗症):
左右対称性に脇の下に汗が出て、下着やシャツにしみができるほど出る場合もあります。
- 脇汗(腋窩多汗症):
- 対策:
- 症状に応じて市販の制汗剤を使用しても直らない場合、保険適用のある塗り薬(抗コリン外用薬)を使用する。
- 重度の場合、専門医による治療(イオントフォレーシスやボットクス注射など)を検討する。
汗やわきが匂う/わきが(腋臭症)
わきが(腋臭症)
- 疾患の特徴:
アポクリン腺から分泌される汗が皮膚の常在菌によって分解され、特有の臭いを発します。
思春期には性ホルモンの影響でアポクリン腺の分泌が増え、特に問題になりやすい時期です。 - 対策:
- 生活習慣の見直しを行う。
- 腋毛の処理や塩化アルミニウム液などの外用を使用する。
- 手術治療やマイクロ波治療などを検討する場合もある。
美容上の悩み
毛深い/多毛症
多毛症
- 疾患の特徴:
性ホルモン(アンドロゲン)バランスの変化により、顔(口周りや顎)、腕、脚などに過剰な体毛が見られることがあります。
特に女子においては心理的な問題にあることもあります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの病気が関与していることがあります。 - 対策:
- 美容皮膚科でのレーザー脱毛が選択肢になります。
- ホルモン異常が疑われる場合は専門医を受診し、内科的治療を検討します。
そばかすが気になる/雀卵斑
そばかす(雀卵斑)
- 疾患の特徴: 顔を中心とした茶色い斑点でいわゆる”そばかす”です。10代からの思春期に最も濃くなってきます。年ともにうすくなりますが個人差があり、遺伝的な傾向があり、特に色白の人に多く、日焼けの影響で濃くなります。
- 対策:
- 日焼け止めを使用して紫外線対策を徹底するが重要です。
- 気になる場合はレーザー治療を検討します。
紫外線のトラブル
紫外線の影響(日焼け、光線過敏症)
- 疾患の特徴:
長時間の紫外線曝露により、肌が赤くなり、ヒリヒリする痛みが伴います。
また日光と化学物質との反応で接触性皮膚炎を誘発することもあります。 - 対策:
- 外出前に日焼け止めを使用し、定期的に塗り直す。
- 日焼け後は冷却と保湿を行い、ひどい場合は皮膚科を受診します。
思春期のスキンケア
10代前半は皮膚が乾燥しやすく、保湿を継続することが重要です。
ニキビが気になりだしたら正しい洗顔をしましょう
洗顔
- 朝晩2回、低刺激性の洗顔料を使用して優しく洗います。洗いすぎやよくありません。
- 手で泡立てて洗顔し、ゴシゴシこすらないように注意します。
保湿
- 洗顔後は適切な保湿剤を使用して肌の水分を補います。
- 乾燥しやすい部分にはクリームタイプ、脂っぽい部分にはジェルタイプを使い分けます。
- 保湿剤は顔全体に均一に塗布し、乾燥しやすい部位を重点的にケアしてください。
化粧品やメイクの注意点
- 化粧をする場合は、ノンコメドジェニック(にきびを悪化させにくい)と記載された化粧品を選びましょう。
- 化粧を落とす際には、クレンジングを優しく行い、肌に負担をかけないように注意してください。
- 化粧品を共有することは避け、個人のものを使用してください。
- 化粧をしている時間が長くならないように心がけ、帰宅後は早めにメイクを落とすことをおすすめします。
- 洗顔後は適切な保湿剤を使用して肌の水分を補います。乾燥しやすい部分にはクリームタイプ、脂っぽい部分にはジェルタイプを使い分けます。
紫外線対策
- SPF30以上の日焼け止めを使用し、紫外線によるダメージを防ぎます。
- 外出時は帽子や日傘を活用します。
健康的な生活習慣
- 栄養バランスの取れた食事を心がけ、ビタミンやミネラルを積極的に摂取します。
- 規則正しい生活と十分な睡眠を確保します。
思春期のお肌 Q&A
Q.にきびは洗顔だけで治りますか?
A にきびの初期では、洗顔を徹底することで改善する場合があります。低刺激性の洗顔料を使い、朝晩2回しっかり洗顔することが大切です。
ただし、炎症がある場合やにきびが広範囲に広がっている場合は、医師の診察を受けて外用薬や内服薬を使用することをおすすめします。
Q. にきびをつぶしても大丈夫ですか?
A にきびをつぶすことはおすすめしません。つぶすと雑菌が入り込み、炎症が悪化したり、跡が残ったりする原因になります。
医師による適切な処置が必要な場合もあるため、自己判断でつぶさないようにしましょう。
Q. にきびがあるときに化粧をしてもいいですか?
A にきびがある場合でも化粧をすることは可能ですが、ノンコメドジェニック(にきびを悪化させにくい)と記載された化粧品を選び、化粧をしたまま長時間過ごさないように注意してください。また、クレンジングは優しく行い、肌に負担をかけないようにしましょう。
Q. 洗顔は何回すればよいですか?
A 一般的に、朝と夜の1日2回の洗顔が適切です。洗顔のしすぎは肌を乾燥させ、逆に皮脂の過剰分泌を招くことがあります。洗顔後は必ず保湿を行いましょう。
Q. 汗っかきであせもがよくできます。どう対処すればいいですか?
A 汗をかいたら早めに拭き取り、シャワーを浴びて肌を清潔に保ちましょう。また、通気性の良い服を着用し、制汗剤を使用してください。
最近は、保険適用のある塗り薬(抗コリン外用薬)など治療の選択肢が増えています。
お悩みのある場合は、病気じゃないと思わず、気軽に相談してください。自分の症状やライフスタイルに合った方法を考えましょう。
Q.そばかすが気になります。治療方法はありますか?
A そばかす(雀卵斑)は遺伝的要因が大きいため完全に予防するのは難しいですが、日焼け止めをこまめに塗ることで悪化を防ぐことができます。
レーザー治療も選択肢になります。当院で行っていない治療も適切な医療機関にご紹介しますので、気軽にご相談ください。
Q.毛深いのが気になります。どうしたらいいですか?
A 多毛は思春期にホルモンバランスの変化で問題になることがあります。必要に応じて、ホルモンの検査を受けることをおすすめします。
病的でない場合は、美容皮膚科でのレーザー脱毛が効果的です。当院で行っていない治療も適切な医療機関にご紹介しますので、気軽にご相談ください
Q. 紫外線対策はどの程度必要ですか?
A 紫外線は肌トラブルの原因になるため、SPF30以上の日焼け止めを使用し、外出時には帽子や日傘を活用してください。日焼け止めは2‐3時間おきに塗り直すことをおすすめします。
Q. ストレスと肌トラブルには関係がありますか?
A ストレスは皮脂の分泌を促進し、にきびや湿疹を悪化させることがあります。適度な運動や十分な睡眠でストレスを管理することが、肌の健康に役立ちます。
Q. 皮膚科を受診するタイミングは?
A: 自己ケアでは改善しない場合や、炎症がひどい、皮膚が腫れている、または症状が全身に広がっている場合、肌のトラブルで日々悩んでいる場合などお気軽に受診してください
まとめ
思春期は肌が大きく変化する時期であり、適切なケアが重要です。スキンケアだけでなく、規則正しい生活習慣やストレス管理も肌の健康を保つ上で欠かせません。
また、揺れ動く心の問題との関係も大切です。例えば、にきびが不登校やいじめなど重大な生活面の問題につながることもありえます。
症状が気になる場合は、早めに皮膚科を受診し、周囲の大人が肌トラブルの影響を理解し、子どもが安心して相談できる環境を整えることが重要です。また、学校や家庭で正しいスキンケア方法を共有することも有効です。
軽い症状に見えてもどうしたらよいかお悩みの方はお気軽にご相談ください。
文献リスト
- 思春期のにきびケア、どうするのが正しい. チャイルドヘルス. 2020.
- 西岡和恵ら. にきび. 小児科. 2021.
- 菊地克子. 思春期のスキンケアやメイク、正しい方法は. チャイルドヘルス. 2020.
- 岡村理栄子. 子供たちのおしゃれによる皮膚トラブル. 小児内科. 2024.
- 小松貴義, 大塚篤司. 思春期の異常とその対応 多毛とにきび. 臨床婦人科産科. 2000.
- 中村健一. ティーンズ女子のにきびをはじめとしたスキントラブル. JIM. 2013.
- 林伸和. にきび患者のスキンケア. 薬局. 2022.