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アトピー性皮膚炎

アトピーの治療

アトピー性皮膚炎とは?
原因・症状・最新治療法とスキンケアのポイントを専門医が解説

アトピー性皮膚炎は、強いかゆみと繰り返す湿疹が特徴の慢性的な皮膚疾患で、特にアトピー素因を持つ人に多く見られます。
アトピー素因とは、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、またはアトピー性皮膚炎のいずれかを持つことを指します。
皮膚のバリア機能が低下し、外部からの刺激やアレルゲンに対して過敏に反応することで、かゆみや湿疹が生じます。

乳幼児期に発症することが多く、小児期に落ち着くことが多いです(アトピー患者の割合は小学校1年17%ですが中学生では10%まで減ります)。
しかし、大人になっても良くならず症状が続いたり、思春期や成人期に初めて症状が現れることもあり、成人も無縁ではありません。 

アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎の原因は一つではなく、以下のような複数の要因が関与しています。

  • アレルギー素因
    家族に、気管支喘息やアレルギー性鼻炎、結膜炎、それにアトピー性皮膚炎など
    複数のアレルギー性の病気を持っている人がいる場合、発症リスクが高まります。
  • 免疫異常
    アトピー性皮膚炎の患者では、IL-4やIL-13などのサイトカインが増加し、炎症が悪化することが分かっています。

  • 皮膚のバリア機能低下:フィラグリンというタンパク質の遺伝子異常がバリア機能の低下を引き起こし、
    皮膚が乾燥しやすく、外部刺激に対する防御力が弱まります。
  • 環境的要因:ダニ、ハウスダスト、カビ、花粉などのアレルゲンや、汗、ストレス、気候の変化などが症状を悪化させることがあります。

 

アトピー性皮膚炎の症状や兆候

アトピー性皮膚炎の主な症状は、強いかゆみをともなう湿疹が長い期間続くことです。
症状の現れ方は年齢や個人差によって異なります。

乳児期(生後2~3ヶ月頃から)

頬や口の周りが乾燥し、赤いブツブツが出現します。その後、頭皮や耳の周囲、背中、手足などに広がり、ジュクジュクとした湿疹になることがあります。

幼小児期・学童期

首、ひじやひざの内側、手首、足首などにかゆみを伴う湿疹が見られます。皮膚が乾燥し、カサカサすることが多いです。

思春期・成人期

皮膚が厚くゴワゴワし、小豆大のかゆみを伴う硬い発疹が出現します。顔面の赤みや色素沈着など、皮膚の色調変化も見られることがあります。

アトピー性皮膚炎の診断

アトピー性皮膚炎の診断は、主に臨床症状と患者さんの病歴に基づいて行われます。具体的には、以下のようなポイントが考慮されます。

  • かゆみの持続:慢性的なかゆみが続いているかどうか。
  • 皮疹の特徴と分布:湿疹の形状や出現部位がアトピー性皮膚炎の典型的なパターンと一致しているか。
  • 慢性的な経過:乳児では2カ月以上、その他では6カ月以上の経過がある。
  • 家族歴や個人歴:家族や本人にアレルギー疾患(喘息、アレルギー性鼻炎など)の有無。

病勢の評価のために、血清総IgEや特異的IgE、血中好酸球数、TARC(Thymus and activation-regulated chemokine)、SCCA2(squamous
cell carcinoma antigen 2)などの検査を行うこともあります。

  • 血清総IgE:治療での低下は緩やかですが, 長期的な病勢コントロールの指標としては、過去数か月間の病勢が反映されます。
  • 特異的IgE:その抗原への感作が成立していることを意味するが、感作の成立が必ずしも症状の原因になっているとはいえません。抗原と症状の因果関係は十分な問診が基本です。とくに、食物抗原については、特異的 IgE 抗体価の陽性のみを根拠とした安易な除去は避けるべきです。
  • TARC(Thymus and activation-regulated chemokine):TARC は、アトピー性皮膚炎の短期的病勢を鋭敏に反映し重症度の評価に用います。
    ただし、TARC 値は小児では低年齢で高値となりますので注意が必要です。
  • SCCA2(squamous cell carcinoma antigen 2):2021 年 2 月より、15 歳以下の小児におけるアトピー性皮膚炎の重症度評価を行うことを目的として保険収載されました。年齢で基準値が変化しないため小児で有用ですが、TARCと同時測定は保険上できません。

アトピー性皮膚炎の治療

アトピー性皮膚炎の治療は、「薬物療法」「スキンケア」「悪化因子の除去・回避」の三本柱が基本となります。
従来の治療は、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの免疫抑制外用薬、全身療法として抗ヒスタミン薬や免疫抑制剤(シクロスポリンなど)を用いるものでした。
しかし、近年では JAK阻害薬や生物学的製剤 などの新しい治療法が登場し、アトピー治療の選択肢が大きく広がっています。

従来の治療では、症状をコントロールするために長期間の外用薬の使用が必要でしたが、新しい治療法の登場により、より効果的で長期的な改善が期待できるようになりました。
特に、中等度から重度のアトピー患者に対して、従来の治療では不十分だった場合に新薬の有効性が高いことが示されています。

アトピー性皮膚炎の外用療法

アトピー性皮膚炎の第一選択肢は 外用療法 です。これは炎症を抑え、皮膚バリア機能を改善し、かゆみを軽減することを目的とします。

ステロイド外用役;

作用:炎症を強力に抑える。

適用:軽症から重症まで、病変の重症度や部位に応じて適切な強さの薬を選択。

使用方法:症状が強いときは積極的に使用し、軽快したら減量する「プロアクティブ療法」が推奨。 

プロアクティブ療法とは?

従来は症状が出たときに、ステロイドなどで治療し、炎症がおさまったら中止し、保湿剤のみでコントロールするリアクティブ治療が中心でした。
最近では症状の出る前から予防的に治療するプロアクティブ療法といわれる治療法が推奨されています。
特に再発が多いアトピー性皮膚炎の場合、炎症を繰り返す部位の症状が落ち着いているように見えても、炎症を抑えるお薬を量を減らしながら塗り続けることで、しっかりと炎症を抑えるという治療法です。

 タクロリムス軟膏(プロトピック®):

作用:免疫を調整し、皮膚の炎症を抑える。

適用:特に顔や首などデリケートな部位に有効。

特徴:ステロイドと異なり、皮膚の萎縮(薄くなる副作用)が起こりにくい。

JAK阻害薬外用剤(デルゴシチニブ軟膏、コレクチム®):

作用:JAK-STAT経路を阻害し、炎症を抑える。

適用:ステロイドやタクロリムスで十分な効果が得られない場合の新たな選択肢。

特徴:2020年に承認された新規外用薬 であり、ステロイドやタクロリムスと異なる作用機序を持つ。

保湿剤の使用(スキンケアの基本):乾燥を防ぎ、皮膚のバリア機能を高めるため、日常的に使用が推奨されます。

作用:皮膚のバリア機能を回復し、炎症を予防。

適用:すべてのアトピー患者が毎日使用するべき。

種類:ヘパリン類似物質(ヒルドイド®など)ワセリン、尿素含有クリーム(乾燥が強い場合)

アトピー性皮膚炎の全身療法

外用薬で十分な改善が得られない場合、全身療法をおこないます。
以前は副作用の多いステロイドや、シクロスポリンという免疫抑制剤しか選択肢がありませんでしたが、
安全性が高く効果の強い、生物学的製剤やJAK阻害剤の登場で、アトピー治療は大きく変わりました。

ステロイド内服(一時のみ使用)

作用:強力な抗炎症作用。

適用:急性増悪時に(1〜2週間)のみ使用。

注意点:長期使用は副作用(糖尿病、骨粗鬆症など)の代謝性副作用があり、ステロイド忌避の一院になりました。

 シクロスポリン(免疫抑制薬)

作用:免疫を抑えて炎症を強力に抑制します。

適用:重症アトピー患者に一時使用(3ヶ月〜6ヶ月)。

副作用:腎機能障害、高血圧、感染リスク増加。

 生物学的製剤(デュピルマブ:デュピクセント®)

作用:IL-4、IL-13を見つけてアレルギー反応を重視。

適用:従来の治療でコントロールが困難な中等度から重度のアトピー患者。幼児にも使用可能となりました。

特徴:2018年に日本で承認された初のアトピー性皮膚炎に対する生物学的製剤。皮下注射(2週間に1回)。副作用が比較的少なく、長期的な使用が可能です。

JAK阻害薬内服(ウパダシチニブ、バリシチニブ)

作用:JAK-STAT経路を阻害し、炎症を強力に促す。

特徴:2022年に承認された治療法。即効性があり、かゆみの軽減効果が高い飲み薬。
ステロイド外用薬に依存せず、顔や首の治療がしやすくなりました。

「アトピーの症状を軽減!快適に過ごすための生活のポイント」

アトピー性皮膚炎の治療には、薬物療法やスキンケアに加えて、生活環境の工夫が重要です。日常の中で症状を悪化させる要因を取り除き、肌の健康を維持するための具体的な方法を紹介します。

室内環境の整備|ダニ・ハウスダスト対策

アトピー性皮膚炎の方は、ダニやハウスダストによって症状が悪化することがあります。特に布団やカーペット、ぬいぐるみはダニの温床になりやすいため、以下の対策を行いましょう。

  • 布団の管理:布団や枕カバーはこまめに洗濯し、可能であれば防ダニカバーを使用する。天日干し後、掃除機でダニの死骸を取り除く。
  • 掃除の工夫:床はフローリングが理想的。カーペットを使う場合は、週に1回以上掃除機をかけ、ダニの繁殖を抑える。
  • 家具の配置:ホコリがたまりやすい場所を減らし、掃除がしやすい環境を整える。
 かゆみを抑える工夫|衣類・爪・入浴

アトピー性皮膚炎のかゆみを抑えるためには、日常のちょっとした工夫が大切です。

  • 衣類の選び方:肌に優しい綿素材の服を選び、化学繊維やウールは避ける。締め付けの少ない服を着用し、汗をかいたらすぐに着替える。
  • 爪の管理:かゆみがひどいと、無意識に掻いてしまいがち。爪を短く切り、皮膚を傷つけないようにする。
  • 入浴の工夫:熱いお湯は肌を刺激するため、ぬるめ(38℃程度)の湯に短時間浸かる。石けんは低刺激のものを使い、ゴシゴシこすらず優しく洗う。
食事とストレス管理|内側からのケア

食事やストレスもアトピー性皮膚炎に影響を与えるため、以下の点を意識しましょう。

  • バランスの良い食事:ビタミンDやオメガ3脂肪酸を含む魚類、乳酸菌を含む発酵食品を積極的に取り入れる。
  • 食物アレルギーのチェック:特定の食べ物を食べた後に症状が悪化する場合は、医師に相談し、適切な評価を受ける。
  • ストレスの軽減:ストレスはかゆみを悪化させることがある。リラックスできる時間を作り、十分な睡眠をとることが大切。
まとめ

アトピー性皮膚炎の管理には、日常生活の見直しが欠かせません。
掃除や衣類の工夫、正しい入浴方法を意識し、症状の悪化を防ぎましょう。生活の中でできる対策を継続することで、肌の状態をより良く保つことができます。


文献

  • 佐々木りか子. 乳児湿疹とアトピー性皮膚炎. 小児の皮膚診療. 2023​.
  • 清水宏. あたらしい皮膚科 第3版. 2018.
  • アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024. 日皮会誌. 2024.
  • 佐々木りか子. 乳児湿疹とアトピー性皮膚炎. 小児の皮膚診療. 2023​.
  • 清水宏. あたらしい皮膚科 第3版. 2018.
  • 吉田和恵. アトピー性皮膚炎 ―乳児期の特徴. 小児内科. 2022. 
  • 吉田和恵. アトピー性皮膚炎 ―小児期の特徴. 小児内科. 2022. 
  • 田中ふみ.  アトピー性皮膚炎の生活指導. 小児科診療. 2023 .

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